『叱る』が通りにくい理由:叱責ではなく『構造化+温かい一貫性』へ

今朝、家庭学習のサポート中に、思わず強く叱責してしまった。
先日は、外出先で他人の目に対して“パフォーマンス的に叱る”配分が強く出てしまい、後から悶々としたばかり…

ブレてしまいがちな叱り方について、再度視点を整理しておこうと思う。

「子にとっての適切なあり方」について、改めてまとめてみる。

メモ:ADHDの神経特性にとって「叱責」は逆効果になり得る。

ADHDの子に対して、一般的な「叱る(罰を与える)」だけの指導がうまく効きにくい背景には、脳の働き方の違いが関係すると示唆されている。

 

○通用しにくい理由は、脳の3特性にあり

具体的に3つの観点(報酬系・抑制機能・情動調節)で整理。

1. 報酬系の観点(ドーパミン転移不全:DTD仮説)

ADHDの脳内では、報酬(褒め言葉や成功体験)を処理するドーパミンの働きに、定型発達児とは違いがある可能性が議論されている。

※ドーパミン転移不全(DTD)仮説

・報酬の「予測・期待」と「行動」が結びつきにくい

定型発達児の脳では、報酬を予測した時点(褒められる前兆等)でドーパミンが放出されるので、行動の原動力になりやすい。

一方、ADHD児の脳では、報酬に関する反応の出現タイミングや条件が異なるという仮説がある(前兆より実際の報酬に反応が寄りやすい等)。

・即時性の制限

ADHDでは、未来の報酬(「これを頑張れば週末に遊べる」)で今の行動を律する、というロジックが効きにくい場面がある。
家庭での工夫としては「できた直後の具体的フィードバック」の比重が高くなる。

・「叱責」が学習の信号にはなりにくい

叱ることで行動を制御しようとしても、脳はそれを「学習の信号」として処理できない。単に「努力が報われなかった」という神経学的なエラー信号として受け取ります。その結果、学習効率が低下し、モチベーション低下してしまう。

 

2.抑制機能の観点(ブレーキ役の前頭前野)

ADHDの児童は、行動を抑制する「ブレーキ」の役割を果たす前頭前野の実行機能が弱く出やすいことが知られている。

 

・叱責=ストレス刺激による扁桃体過剰反応

叱責のようなストレス刺激を受けると、原始的な脳である「扁桃体」が過剰に反応。これにより、理性的判断を下す前頭前野との接続が一時的に遮断される。

情動反応が強まると、理性的に処理する力が落ちる。
この状態で説教を積み上げても、子ども側は情報処理が追いつかないことがある。

(アミグダラ・ハイジャックと呼ばれる説明もある。)

・トップダウン制御が働きにくい局面

定型発達児は叱責により「静かにしなさい」等のトップダウンの命令で衝動を抑えられますが、ADHD児はこの神経経路が脆弱なため、叱られても「物理的に止まれない」という状態が起こりうる。

 

3. 情動調節(累積的欲求不満:叱責による負の連鎖)

ADHD児は、罰や叱責に対して、定型発達児とは逆の感情曲線を描くことが2024年の研究で示されている。

 

・累積的欲求不満

定型発達児は、失敗や罰を経験しても徐々に「欲求不満耐性」を構築し、目的達成のために我慢することができる

しかし、ADHD児は罰を経験すればするほど負の感情が蓄積していく「累積的欲求不満」の特性を持つ 

 

・叱責→回避行動の強化

叱責が繰り返されると、脳は「そのタスク=苦痛」と学習してしまう。

その結果、改善しようとするのではなく、その場から逃げ出す、嘘をつく、あるいは爆発するといった「回避行動」を強化してしまう経路になり得る

 

・時間の経過による悪化

研究によれば、ADHD児は課題に取り組む時間が長くなるほど、また叱責を受ける回数が増えるほど負の表情や感情表現が増加

 

 

結論:感情的な叱責ではなく、ポイントは構造化

神経学的な特性から、ADHD児には「感情的な叱責」は悪循環を招くことがある。

ポイントは構造化と一貫性に寄せること。

 

○即時的な報酬の付与

適切な行動の直後に「具体的な賞賛」を与える。

 

○非懲罰的な環境設定(外付けのブレーキ)

前頭前野に頼りすぎないよう、タイマーや視覚的なリストなど「外付けのブレーキ」を用意する。

 

○冷静なルールの適用(If–Then)

感情で叱るのではなく、事前に決めた「 If-Then(もし〜したら、〜になる)」という論理的帰結を淡々と適用する。

 

○家庭は「失敗しても安全な場所」

不適切行動を「脳の特性によるミス」と外在化(Externalize)し、家庭を「失敗しても安全な場所」として再定義することが推奨されている。

※「RE-MAP」フレームワークの2025年以降の指導指針

 

 

メモ:「ポジティブ・ディシプリン」という整理

厳しさでも放任でもなく、明確な構造化と温かみのあるサポートを組み合わせる考え方は、「ポジティブ・ディシプリン」に近い。

子供の責任感、協力、および問題解決スキルを養うことを目的としている

2024年の研究では、このアプローチが母親の育児自己効力感を劇的に向上させ、子供の健康的なライフスタイル行動を促進することが示された(自己効力感はほんとうになかなか醸成されにくいので、ここもまた掘るべきポイント)

①親切さと厳格さの両立

子供の尊厳を保ちながら、ルールに対しては一貫した態度で接する。

 

②前向きなコミュニケーション

「〜してはいけない」という禁止命令ではなく、「〜しよう」という肯定的な指示を与える 。

 

③事前合意と論理的な帰結

行動の結果として何が起こるかを事前に合意し、罰を与えるのではなく、自らの行動が招いた結果を経験させる

例えば事前に「もし宿題が終わらなかったら、ゲームの時間はこれだけ減る」といった論理的帰結(Logical Consequences)を、淡々と適用することが親子間の衝突を最小限に抑える 

 

④計画的な無視(Planned Ignoring)

注意を引くための不適切な行動(軽微な騒ぎ、鉛筆をいじる、独り言など)に対しては反応せず適切な行動(10秒座れた、ノートを開いた)が現れた瞬間に即座&具体的に褒める手法が有効 。

 

 

ポイント制の取り入れ方や、事前合意と論理的帰結の徹底など、改めて見直したり、調整したりしつつ、日々改善を重ねていきたい。

ブレてしまう自分への自戒も込めて、勉強していこう。

 

 

参考(出典)

Dopamine transfer deficit(DTD)仮説:Tripp & Wickens (2008)

罰と情動反応(ADHDで時間経過とともにネガ反応が増える等):Hulsbosch et al. (2024)

Positive Discipline介入と育児自己効力感:Liu et al. (2024)

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